しまった!!

 ゾロは気付くや否やダッと甲板を蹴り、ラウンジへと引き返した。

 恐らく、記憶がないことで不安なはずのサンジは、恋人だという名目がなければ、絶対に自分を頼ってはこないだろう。
 支えになってやりたくても、きっと本人はそれを拒否する。
 そんなことは痛いほどよく知っている。今までがそうだ。好きだとぶっちゃけてお互いの全てを許容する意志を伝え合う以前は、仲間といっても傍目にはどちらかというと仲も悪く、同い年の対抗意識か、相手へのおおっぴらな甘えを自分に許そうとしなかった。

 ほかの誰より頼りにして欲しいのに、サンジはきっと、ゾロにだけは弱音を吐かない。
 相手が辛いとき、力になってやりたくても一番手を出しづらいポジション。
 そこに戻ってしまった。

 それはいけない。
 それは我慢ならない。

 ゾロはそれだけの勢いでラウンジの扉を開けた。
 すると、鼻歌なんか歌いながら夕食の支度をしているサンジが見えた。

「何か用かクソ腹巻き」

 結構な勢いで乱暴に扉を開けたのだが、サンジはゾロを振り返ることもなかった。素っ気無い一言だけを寄越し、包丁を動かしている。
 普段とまったく変わりない。
 それがおかしかったのかもしれない。昨晩から恋人同士になった二人は、今日から普段と変わった様子が出るのが正解だったのかもしれない。
 が、それをスッカリ忘れているサンジは、腹立たしいほど普段通りだ。

 さて、腹立たしいが。
 ゾロはとりあえずラウンジに戻って、何をするべきか考えていなかった。

「酒ならやらねえよ? 買い込んだばっかだからって昼間っから呑もーとすんな」

 黙っていると、サンジはゾロの目的を決めつけ気味に言葉を連ねた。
 酒を買い込んだばかりだと。

「…思い出したのか」
「ん?」

 そこで初めて、サンジが顔を上げた。ゾロと視線を合わせる。
 が、すぐに手元に目を戻した。調理を再開する。

「や、全然。そんで、何の用だよお前」

 失ったはずの記憶の時間のことを口にするから、もしやと思ったゾロは間違いだったようだ。あっさりと否定された。
 今の言葉は失った記憶を埋める知的経験に他ならなかったが、サンジ自身も特に気にしていないように思えた。

 ゾロはガッカリした。
 ちょっとしたガッカリのはずなのだが、ゾロはひどくマイナスの感情が沸き上がるのを自覚した。

「用がなきゃココに来ちゃいけねえのかよ」
「は? あーそうね。いけねえっつか、キショイね」

 ゾロが、つい大人気なく突っかかると、見事大人気なくサンジは返した。サンジ自身、ゾロがなんでそんなことを言うのか、バカバカしいと思っただろうに、わざわざ悪態をつく。
 そういう奴だ、サンジは。
 いつも通り。

 ゾロは非常に腹立たしい。
 自分がどんなに相手を好きでも、相手はちっとも自分を好きだと思わないらしい。昨日、玉砕覚悟で告白した瞬間まで、ずっとついてまわっていた小さな落胆する事実を再び突き付けられる。
 一度クリアしたはずの問題だったからか、それは妙に腹が立った。

 思い出せ。

 ゾロは思った。

 失った記憶を取り戻せば、サンジは不安もなくなり、ゾロが支えになってやることもとりあえずなくなるのだが、ゾロはそこに行き着いた。
 そして、頭部への衝撃で記憶を失ったのだから、もう一度頭部へ衝撃を加えれば記憶が元に戻るかもしれない、なんて原始的かつ野蛮な作戦が頭に浮かんだ。

 見遣った先のサンジの頭は、どこか小動物を思わせる黄色い丸。ゾロに悪態をつきながらも、料理するのが楽しいのか、表情はへらへら脳天気だ。
 2日分の記憶はもとより、あの頭の中には何も入っていないような気さえする。
 ゾロはサンジの側にツカツカと歩み寄り、おもむろに右手を振り上げ、黄色い頭をガツンと殴った。
 潔いのかアホなのか、サンジは避けることもなく無防備にゾロの拳を喰らって、頭を大きく前に揺らした。

 気持ち良く決まった。

 が。

「痛ェなテメエは何しやがんだクソ!!」

 サンジはドラマティックに記憶を取り戻した様子もなく、怒鳴って脚の凶器をゾロに振りかざした。

「思い出したか」
「思い出すかボケ---!!!」

 最初の一撃をゾロが避けると、サンジはさらに激昂して蹴りを繰り出す。
 記憶は戻らないらしい。
 しかしゾロは諦めなかった。
 都合よく掴み合いの喧嘩になった。喧嘩に乗じて頭に衝撃を加えることが出来る。

 ゾロはがんばった。

 実は、サンジを殴るのはなかなか難しい。蹴り技が得意の相手が、長い脚を振り回すもんだから、頭を殴れるところまで入っていけないのだ。普段は刀を出して応戦するが、愛しい恋人を斬っても仕方ない。

 相当の蹴りを喰らいつつ、ゾロは頭狙いで頑張った。

 ラウンジの壁に穴を空け、ナミに怒られるまで頑張った。

 頑張ったが、結局サンジは記憶を取り戻すことはなかった。

***

 不完全燃焼。

 ナミによって強制終了させられた喧嘩は、ゾロに悔しさを残した。サンジにとっては、おそらく日常茶飯事のことで何も残ってはいないだろう。ゾロがサンジに記憶を取り戻させようとした、その意図さえ伝わらなかったかもしれない。
 ゾロは船尾に出て、不完全燃焼を払拭するようにダンベルを振っていた。
 サンジは、ナミに謝り、ゾロには般若の顔で一瞥をくれて、今は夕食の支度に戻っている。
 ゾロが自分を苦しいくらいに想っていることなんか知りもしないで。

 腹立たしい。

 というか。

 切ないな、とゾロは思った。

 完全に、苦しい片思いの過去に逆戻りだ。
 いや、それよりも辛いかもしれない。

 ゾロが伝えた愛の言葉も、それに応えた自分の言葉も、ツルリとサンジの記憶から消えてしまった。

 こんなに簡単に。
 『ない』ことになってしまった。

 一度手に入れたと思っていたものがなくなるのは、手に入らなかった頃よりもよっぽど辛かった。
 眼前いっぱいに広がる水平線に、陽が赤く沈んでいく。
 ゾロは感傷に浸るタイプではなかったが、それでも少し、余計に胸が痛むような気がした。

 妙に辛い。

 女々しいことこの上ないが、思い出してほしいと思った。
 ゾロは分かっている。サンジに好きだと伝えた、その言葉をなくしてしまったならもう一度与えてやればいいのだ。
 が、気が重い。
 あの時どれだけ緊張したか。思い出すのもしんどい。
 サンジの性格からみて、予想される反応は、冗談として笑い飛ばす、気持ち悪いと罵倒する、驚きの事実に怯える、狂っていると馬鹿にする、など。とりあえず高い確率で蹴られる。最悪、ホモと一緒に航海なんか出来るかと船を降りられる、またはゾロが降ろされる。
 恋が成就するなんてのは、大穴中の大穴。
 絶望の下馬評の中、僅かな希望に賭けた愛の告白。あの緊張が再び。
 サンジが記憶をなくす前までは、達成感を強めるに相応しい、清々しい苦悩ではあったが、もう一度経験したいとはあんまり思わない。
 ゾロはげっそりした。

 ん?

 そこでゾロは、何か変だなーと思ったが。

「オーイ、飯だぞー」

 サンジの呼び声に、気付いた何かは吹っ飛んでしまった。
 はて、今自分は何を思い付いたのやら。ゾロは考える。考えるが、出て来ない。出て来ない代わりに、サンジが今その渦中にいる記憶喪失の状態は、こんなかんじなのだろうかと思い付いたりした。そして、やはり頭に何かガツンと刺激を与えるのが、記憶の回復に有効な手段なんじゃないかと思った。

 サンジの声に応えることなくボケ-としていると、船尾に黄色い頭が現れる。
 陽はほぼ沈み、船尾の半分は暗い紫色に染まっていた。赤い陽に照らされてキラキラ輝く金髪が綺麗だなと、ゾロは思った。

「オイ、飯だぞって。いつまで筋肉養成してん…」

 サンジの台詞は変なところで途切れた。びっくりして声も出ないようだった。

 ゾロが、綺麗な金髪目掛けて、手にしていたダンベルをひとつ、放り投げたからだ。

 サンジにしてみれば、ゾロの行動は脈絡がなく奇想天外だ。放物線を描いて近付く重たそうな鉄の塊から逃げることも思い付かずに、ただただ驚く。

 ゴツッ、と鈍い音がした。

 果たしてダンベルはサンジの脳天に命中する。

 サンジは小さく呻いて後ろに倒れた。

「ヨシ!」

 ゾロは小さくガッツポーズを作る。
 今度こそ、サンジは記憶を取り戻しただろうか。結果や如何に。

 ゾロは期待に足取りも軽く、倒れたサンジに近付いた。ちょうどサンジがよろよろと起き上がろうとしていたところ、助けようと手を差し出す。
 しかしその手ははね除けられた。脚で。思い切り、でないにしろ、ゾロの強肩が投げた重さ20kgのダンベルを頭に喰らっていながらすぐ脚が出るあたり、さすがの頑丈さだ。

「何なんだテメエは!?」

 顔を上げ、ぎろりとゾロを睨み付けるサンジの顔には、血液が幾筋か垂れ掛けていた。ダンベルの角でも当たったか、どこか切ったらしい。

「悪い、手が滑った」

 とりあえず悪気のないことを伝えるべく、ゾロは何故かどーでもいい嘘を付いた。

「こんな滑り方があるかアホー!!」

 サンジの叫びも尤もだ。
 怒りに任せて繰り出した蹴りは、先を読んで避けたつもりのゾロの腹に、どうにか浅くヒットした。ゾロは後方に吹っ飛び、手摺に背中を打ち付けた。手摺が壊れなかったあたり、充分浅いヒットだったと言えよう。
 サンジは結構本気だったようだ。腹部の痛みは、あらかじめガードの体勢を作っていなかったら内臓破裂も必至と思わせた。

「お前はオレに、何か恨みでもあるのかなあ!?」

 地獄の底から這い出るような力の篭った低音がゾロの鼓膜を刺激した。
 見れば金髪の般若が流血で自分を睨み降ろしている。
 夕陽がその顔を半分だけ照らし出した。濃い影の色と夕陽の赤のコントラストがとても怖い。
 が、ゾロは負けない。

「思い出したか」
「またそれか!?」

 聞けばサンジは心底呆れたような反応を返す。実際サンジはとても呆れていた。
 つまりダンベルを投げてきたのは自分の記憶を取り戻そうとしてのことだと理解し、昼の喧嘩で頭に衝撃を与えても無効だと学んではいなかったのかと、ゾロの低能さに呆れた。
 その低能の餌食になる自分を哀れに思い、ゾロの低能に腹が立った。

 サンジは怒りのボルテージの上昇に従って、見るからに低能そうな緑の頭に脚を振り降ろす。

 僅かに心にある罪悪感を振り切る意味も込めて。
 サンジは腹巻き討伐に全力を注いだ。

 しかし繰り出した攻撃を躱される。

「チクショウ、避けんな!!」
「思い出さねえのか」
「思い出す前にアタマパーになるっつの!」

 息を付く暇もなく自分を狙う脚を躱すことに集中しつつ、サンジの言葉でゾロは落胆した。

 結局サンジの記憶は戻っていない。

 ほかの誰もがそうしたように、ゾロもサンジの2日分の記憶は諦めるべきなのだろうか。

 妙にキレ気味のサンジを見据え、ゾロはまた少し胸が痛くなった。

「何やってんのよあんたたちは!」

 ゾロを食事に呼びに行ったきり帰って来ないサンジを気に掛けたのか、あるいは船尾での派手な物音と怒号に我慢ならなくなったのか。
 またしてもナミの登場で、二人の諍いは強制終了となった。

「あっ、ごめんねナミさん。うるさかった?」
「うわ、血が出てるじゃない。チョッパー、サンジくんの怪我診てやって! ハイ、アンタは行った!」

 見事な切り替えで笑顔を作るサンジにナミは手早く退場を促した。それから、ゾロに目を向ける。
 ゾロは、とりあえずナミは無視して船尾を引き上げるサンジを目で追っていた。
 ナミの言葉に従って、大人しく階段に向かう。慌てて出て来たチョッパーに少し笑い掛け、階段を降りる寸前で一度こちらを振り返った。
 サンジは、ひどく悲しそうな目をしていた。泣きそうだとゾロは思った。
 ゾロと目が合うと、サンジは慌てて顔を背け、まさに一瞬しかその表情を伺うことは出来なかったが。

 ゾロは、なんとなく理解した。
 一度は気付き掛けて、吹っ飛んだ何かも完全に理解した。

 衝動的に、サンジを追おうとする。

「ゾロ、ちょっと」

 ナミの声がそれを制した。
 無視するのは簡単だったが、ゾロはそこで足を止めるのが正解だろうと、ナミに応じた。何せ、サンジを追ったところでどうするのかは自分でも分からない。

「大体、アンタがどういうつもりかは察しがつくんだけど」
「そうか」

 切り出したナミの言葉は棘だらけで、ゾロが責められるのは目に見える。
 ゾロは適当に返事をする。自分がサンジにしたことで叱られるのは予想がついていた。

「やめなさいよ」
「そーだな」

 やっぱりだ。
 ゾロは間髪入れずに同意した。

「そーだな、じゃないわよ。分かってんならなんでこーゆうことすんの」
「今分かった。後悔してる」

 無理にサンジに記憶を取り戻させることは、よくないと。
 ゾロは先程ようやく思い知った。

「…遅すぎる…」

 ナミが脱力して空を仰いだ。
 ゾロはぶっきらぼうに「うるせえ」と返し、尤もなナミのコメントに居たたまれずに海に視線を移した。

 遅すぎる、とナミは言ったが。
 それでも自力で気付いただけマシなのかもしれないと思っていた。
 人の心の機微をあんまり理解しないゾロに、上辺を作り切るサンジの内面を把握するのは難問だろう。

「いきなり2日分も記憶がなくなって、平気な人なんかあんまりいないわよ。サンジくんはあれで意外と繊細な神経構造してるもん、平気じゃないのは明白じゃない」

 ゾロは沈黙で肯定を示した。そんなことは、最初から分かっている。サンジがあまりにも平気そうに振る舞うから、騙されただけだ。

 サンジだって、思い出したいに決まってる。たかが2日だろうが、昨日という近い過去の記憶が、自分ひとりなかったらダメージは大きい。いくらここまでの経緯を聞いたところで、実感が伴わなければ知識にしかならない。

 誰よりそれを痛感するサンジに、思い出せと言うのは責めているも同じ。

「それで記憶が戻れば快挙なんだけどね…」

 戻らなければ追い詰めるだけ。

 文字どおり後悔しているのがありありと分かるゾロに、ナミは珍しく慰めの意味も込めて言った。その言葉はゾロを救いはしなかったが。

 却って、ゾロは思い返した。船尾を後にするサンジが一瞬見せた泣き出しそうな顔を。
 思い出して欲しいと勝手な暴挙に出た自分の欲求にさえ、応えたくて、応えられない罪悪感に苛まれていたことを知る。あの唇から、今にも謝罪の言葉が漏れるような気がした。

『思い出せなくてごめん』

 いいんだ。悪いのはオレだ。

 ゾロは思った。そして、目の前から逃げるように立ち去るサンジを追って、自分は謝りたかったのだと初めて気付く。

 サンジに初めて好きだと伝えた、あの日の記憶を共有したい気持ちはなお残るけれど。

 それがサンジを傷付けることになるなら、諦めても未練はない。

 過去よりもっと大切な、未来を作っていけばいいのだ。

 と。

 ゾロは微妙に振り出しの心境に戻っていた。

「とにかく、私達に出来ることは何もないわ。サンジくんの記憶を戻してやりたいだなんて、ただのエゴでしかないのよ」

 ナミはわざとキツイ言葉を選んで言った。
 酷なまでに正しい。事実そうであることをきちんと理解しておくべきだと、ゾロに、それから自分に言い聞かせるつもりがあった。

「大事とかなんとかいうことじゃないと思うけど、昨日は取り立てて大きなことがあったわけじゃないし」

「デケエことならあった」

 ゾロがナミの言葉を遮った。
 別にわざわざ知らせて回ることでもないが、ゾロにはもともと隠すつもりは毛頭ない。

「昨日、オレはあいつに好きだって言った。あいつもオレが好きだって言ってた」

「…………」

 男同士の大告白大会があったことを端的に伝えると、ナミはさすがに表情を失った。辛うじて、小さな声で「そうですか」と返す。
 ナミの頭に、19歳の化け物二人がさらに謎の生き物として登録修正された。
 いや、ナミも、彼らが傍目に見えるほど仲が悪くないことは知っていた。喧嘩ばっかりしているが、きちんと信頼し合っていることは知っていた。が、よもや恋愛関係に発展しようとは。

 いやはやびっくり。青天の霹靂。
 ナミは暫し呆然と目の前の実はホモだった男を眺め、事実を受け入れた。

「ああそう…。それでアンタはやたらサンジくんの頭を狙ってたわけね…」

 共感なんぞはまったく出来ないが、ナミはゾロがサンジの記憶を戻すことに執着する理由を理解した。

「ああ。でも、もういい」
「え、いいんだ」
「もう一度、最初からやり直せば済む」
「いいのアンタ、それで。よくないから頭狙ってたんじゃないの?」

 アッサリ言い切るゾロに、ナミが食いついた。我ながら矛盾した主張をしている気はしたが、相手がこうもあっさり引き下がるのは納得がいかない。

 ナミの見解はこうだ。最初からやり直すといっても、記憶をなくしたサンジはそれで万事OKだろうが、ゾロにとって告白は結局ニ度目。二人の間に一度しかあり得ない記念的瞬間が食い違ってしまうのは否めない。だからゾロはサンジに記憶を取り戻して欲しかった。

 …のだと、ナミはうっかり思い込んでいたのだが。

 ゾロがそんな乙女チックなアタマを持っているわけがなかった。

「別に構わねえよ。断られたら辛ェと思って、気が重かっただけだ」

 またあっさり否定されて、ナミはいっそ清々しい。
 ああ、この男はとても遠いところにいるんだな。
 そんなことを痛感した。

「…断られるわけないじゃない…」
「そうなんだ。なんか勘違いしてた」

 ゾロはこくりと一つ頷いた。

 そうなのだ。
 ゾロは、サンジの態度から、すっかり自分まで片思いと思っていた数日前に戻った気でいたが。
 そんなわけはない。
 サンジもゾロが好きだと言った。サンジの恋は、あの晩からスタートしたわけじゃないのだ。
 やたらと悪態ばっかりつく、素っ気無い態度を取る、現在のサンジだってゾロに恋しちゃってるのだ。

 ゾロは、泣きそうな顔をしたサンジを見て、ようやくそこに気が付いた。それはいつか見たことのある表情に似ていて、コイツは自分のことが好きなんだな、と直感した。

 アホにも程がある。

 ナミは気が遠くなっていた。

「………じゃあ、仕切り直してちょうだい………」
「おう」

 なんかどーでもよさそうなナミの言葉に、ゾロは妙な力強さで頷いた。
 すっかり日が暮れた甲板の上、ゾロの周りにだけ何かのオーラが燃えているように見え、ナミは僅かに不安を覚えた。